医療法人の出資持分とは
医療法人には社団法人と財団法人の形態がありますが、医療法人全体の99%以上を、社団法人が占めています。
社団法人である医療法人(社団医療法人)は、「出資持分あり」と「出資持分なし」の2つに分類されます。
医療法の改正により、2007年4月以降に設立できる医療法人は「出資持分なし」に限られましたが、今でも多くの医療法人が「出資持分あり」のままで運営されています。
厚生労働省によると、2024年時点での社団医療法人の件数は58,508件であり、このうち約62%にあたる36,393件が「出資持分あり」とされています。
厚生労働省HP:種類別医療法人数の年次推移
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html
医療法人の出資持分=出資者の財産権
医療法人の出資持分とは、社団医療法人に対して出資した者が、その出資額に応じて有する財産権のことです。
株主が所有する株式のように、「出資持分あり」の医療法人では、出資者は医療法人に対する財産権を持っていることになります。
出資持分=出資額とは限らない
出資持分の価値は、医療法人に出資された金額とは限りません。
基本的には、医療法人の「財産評価額×出資割合」で計算されます。
たとえば、以下のようなケースで出資持分を考えてみましょう。
出資者 | 出資額 | 出資割合 |
院長 | 2,000万円 | 50% |
理事長の配偶者 | 1,000万円 | 25% |
院長の弟 | 1,000万円 | 25% |
合計 | 4,000万円 | 100% |
この医療法人の財産評価額が仮に2億円である場合、それぞれの出資持分は以下のようになります。
・院長:1億円(2億円×50%)
・院長の配偶者:5,000万円(2億円×25%)
・院長の弟:5,000万円(2億円×25%)
医療法人の出資持分が問題となる場面
それでは、医療法人の出資持分は一体どのような場面で影響するのでしょうか。
出資持分の価値が問題となる代表的な場面には、以下のようなものがあります。
出資者から医療法人に対する「払戻請求」
定款で定めたルールにより、出資者は、医療法人に自身の出資持分の払い戻しを請求することができます。
よくある定款の文言に「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」というものがあり、この条項が定款にある医療法人の場合は、出資者である社員の脱退時に、その社員が有する出資持分の払戻請求が行われる可能性があります。
なお、実際に出資した額と払い戻される額との差額は、医療法人からの配当とみなされ、配当所得として所得税などの課税対象になります。
この支払いの際は、源泉徴収をしなければなりません。
医療法人にとっては、払い戻しによる経済的な負担だけでなく税務上の事務負担も生じる手続きとなります。
出資持分を放棄した場合の「みなし贈与」
出資持分の払戻請求権は、放棄することもできます。
しかし放棄すると、放棄した出資者から他の出資者への贈与があったとみなされ、贈与税の課税対象となります。
通常の感覚では理解しづらいものですが、税務上は、出資者の一部が放棄すると、その出資持分の財産価値が他の出資者の出資持分に移転するところに着目しているのです。
先ほどの出資持分の計算例で、出資者の1人が放棄した場合、他の出資者の出資割合が上がることをイメージしてみてください。
出資者が死亡した場合の「相続」
出資持分は、出資者に帰属する財産権です。
そのため、個人である出資者が亡くなられた場合、その出資持分は相続の対象となります。
医療法人の長年の経営が順調であるほど、出資持分の評価額は上がります。
そのため、相続が発生してから相続人が高額な相続税を支払わなければならないことに気づくケースもあります。

出資持分がいくらの財産として扱われるのか、まずは、この価値を把握することが大切です。
正確な計算はとても複雑ですので、当事務所にご相談ください。
事業承継やM&Aに伴う「譲渡」
出資持分は、財産権として他者への譲渡(売却)もできる性質をもちます。
このことから、事業承継やM&Aのために医療法人を譲渡する場合、院長などの出資持分を相手に譲渡することがあります。
売却益とみなされる部分には、譲渡所得として所得税や住民税がかかります。
医療法人の出資持分あり・なしの確認方法
「出資持分あり」の医療法人では、医療法人に蓄積された財産を、退職時などに払い戻しという形で将来受け取れるメリットがあります。
一方、社員の脱退で巨額の払い戻しが必要になったり、取り扱い次第では多額の贈与・相続税を支払うことになったりするため、何も対策をしないまま放置することには大きなリスクがあります。
したがって、医療法人の経営者は、かならず自身の医療法人がどちらに該当するかを把握しておく必要があります。
医療法人の出資持分の有無は、法人の名称や普段の業務といった外見的なものでは判別できません。以下のような方法を用いて確認することができます。
設立時期で推測する
2007年4月以降、出資持分ありの医療法人は、新たに設立することができなくなりました。
そのため、これ以降に新たに認可を受けて設立された医療法人であれば、「出資持分なし」の医療法人となります。
定款の条項を確認する
医療法人の定款に次の条項があれば、「出資持分あり」の医療法人になります。
社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求できる
社員資格を喪失した者は、その出資額を限度として払戻しを請求することができる。
この文言は、出資持分ありの医療法人のためのモデル定款として公表されていたものなので、出資持分あり医療法人の多くの定款にて、同じ文言が採用されていると考えられます。
定款が見当たらないときは、医療法人の設立関係の書類一式に含まれていないかどうかを確認しましょう。
都道府県に閲覧請求をする
定款が見つからない場合は、都道府県に請求して閲覧する方法もあります。
東京都などでは、オンラインで請求することが可能です。
出資者や出資割合の確認方法はある?
医療法人が「出資持分あり」であることが判明した場合、次に気になるのは、出資者や出資割合です。
残念ながら、出資者や出資割合の情報は、医療法人において記録して管理するしかありません。
ただし、医療法人の設立時に行われた出資であれば、設立書類一式で確認することができます。
医療法人の出資持分の対策
ご自身の医療法人が「出資持分あり」であると判明した場合、これから将来のためにどのような対策ができるでしょうか。
出資持分なし医療法人に移行する
まずは、出資持分ありから出資持分なしの医療法人に移行する方法があります。
出資持分による将来のさまざまな問題を解決できますが、税務上の注意点が多く、慎重に検討する必要のある方法です。
特に何も考えずに行ってしまうと、出資者から医療法人に対する贈与とみなされ、法人に多額の贈与税がかかるという、特殊な課税が行われるからです。
さらに、出資持分なしの医療法人に一旦変更すると、出資持分ありの医療法人に戻ることは二度とできません。
出資持分ありのメリットを失うことになりますので、かなり慎重な検討が必要です。
出資額限度法人に移行する
「出資額限度法人」という別の「出資持分あり」の医療法人に移行する方法もあります。
この制度は、出資持分を放棄するのではなく、出資持分の払戻請求額を出資額の範囲内とするものです。
払い戻しによる将来の資金繰りの悪化を抑えることが期待できる対策になります。
将来の相続や事業承継の対策を始める
将来の相続税の負担がどのくらいになるかは、医療法人の出資持分の価値だけでなく、すべての財産の状況で決まります。
そのため、医療法人の出資持分だけを悩むよりも、今から将来の相続や事業承継に向けて、医療法人と個人の財産を総合的に考えた対策を打ち出すことが最善策です。
医療法人の出資持分はそのままにし、他の資産の相続税対策で十分な効果を得られる場合もあります。
まとめ
- 医療法人の出資持分は、出資者の財産権として相続・贈与・M&Aなどに大きく影響する
- 2007年4月以降に設立された医療法人は「出資持分なし」に限定されている
- 出資持分の有無は、定款の条項や設立時期などで確認が可能
- 出資持分ありの法人では、払戻請求・みなし贈与・相続税などのリスクがある
- 対策として「出資持分なし法人」や「出資額限度法人」への移行、相続対策の検討が重要
- 早期に現状を把握し、専門家と連携して将来に備えた計画を立てることが大切

いかがでしたでしょうか。
今回は医療法人の出資持分とは、持分あり・なしの違いや確認方法について解説いたしました。
医療法人の出資持分は、相続・事業承継・M&Aといった将来の重要な局面で影響を及ぼし、時には、思わぬ高額な税負担が生じることもあります。
だからこそ、医療法人を取り巻く法務や税務、そして医師ならではの悩みに精通した専門家の支援が不可欠です。
当事務所では、医療法人や、医師とそのご家族に特化した豊富な支援実績をもとに、定款の確認や出資持分の評価はもちろん、院長のお考えを丁寧にヒアリングした上で、相続・承継・組織再編について総合的なご提案を行っております。お気軽にご相談ください。
まいど!西新宿の税理士 中村です!
医療法人にとって「出資持分」の有無は、相続や事業承継といった医療法人の将来設計に大きな影響を及ぼします。
今回は、医療法人の出資持分あり・なしの確認方法や、その違いが及ぼす影響と対策を解説します。
是非ご一読ください!