Pick UP!

株式会社が医療法人を買収するためのスキームや注意点を解説

税理士 中村太郎

まいど!西新宿の税理士 中村です!

医療法人は非営利法人のため株式会社による直接買収はできません。

しかし、法制度を踏まえた適切なスキームを活用すれば、経営関与や経済的効果の獲得は可能です。

今回は、株式会社が医療法人を買収する為のスキームや注意点について解説します。

是非ご一読ください!

株式会社による医療法人の買収は可能か

「株式会社で、医療法人の買収がしたい」というM&Aのご相談を、株式会社の経営者の方などからいただくことがあります。

その理由は、医療関係事業への新規参入の契機とするためであったり、既存事業とのシナジーを目的とするものであったりとさまざまです。

もちろん医療法人側にとっても株式会社との提携は、医療以外の業務の委託ができたり、経営の多角化や株式会社の資金活用ができたりするメリットがあるため、どちらにとっても良い買収となるケースは少なくありません。

しかし、医療法人は「非営利法人」として設計されています。

そのため、営利法人である株式会社が、その経営権を自由に買収できるわけではありません。

※この記事での「医療法人」とは、全国の99%の医療法人が該当する「社団法人」である医療法人を前提に解説します。

営利法人による医療法人の買収が制限される仕組み

営利法人による医療法人の買収が制限される仕組みについて詳しく解説してまいります。

医療法人は「非営利法人」である

医療法人は、医療法に基づき設立される非営利法人です。

なぜ非営利であることが求められるかというと、日本の社会医療保険制度のもと、医療機関には地域における公平かつ良質な医療提供が求められるからです。

その非営利性を担保するため、医療法では医療法人の利益を出資者に分配することができないことが定められています。

医療法人の意思決定は「社員」が行う

医療法人における経営の最高意思決定機関は、「社員総会」です。

この社員総会により、医療法人の理事や監事といった役員が選任され、法人の運営や監査が行われる仕組みとなります。

社員総会の構成員は「社員」と呼ばれ、社員には1人1票の議決権が与えられます。

つまり、医療法人を買収する際には、一般的な株式取得による子会社化とは異なり、この「社員」の地位を得ることが必要になります。

株式会社は医療法人の社員になれない

ところが、医療法人の社員になれるのは自然人または非営利法人に限られ、株式会社などの営利法人は社員になることができません。

このことは、厚生労働省医政局長から各都道府県知事にあてた通知においても、次のように示されています。


1 医療法人の機関に関する規定等の内容について

2 社員総会に関する事項について(法第46条の3から第46条の36関係)

(5) その他

③ 社団たる医療法人の社員には、自然人だけでなく法人(営利を目的とする法人を除く。)もなることができること

(出典)厚生労働省:「医療法人の機関について」(平成28年3月25日付け医政発0325第3号)

https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tc3595&dataType=1&pageNo=1

このような制約があるため、株式会社が医療法人の経営に直接参画することは制度上認められておらず、別の手段による関与が必要になります。

医療法人を買収するためのスキーム

それでは、株式会社が医療法人を買収するために用いられる代表的なスキームを解説します。

社員の過半数を交代させるスキーム

株式会社が医療法人を買収する代表的なスキームとは、医療法人の社員の過半数を、株式会社が選任した人物に交代させるものです。

株式会社が医療法人の社員に就任することは認められませんが、株式会社が選んだ個人が就任することについては、明確な規制はありません。

そのため、社員の過半数を株式会社が選任した人物に交代させることで、その意思決定への関与を実現するスキームになります。

ただし「形式上合法でも実質的に営利目的の介入」と判断されると、都道府県の認可や医療法人の指導監督に影響する可能性があります。

社員の出資持分を併せて取得する

このスキームで、社員の交代と併せて考えなければならないのが、既存の社員が有する「出資持分」になります。

医療法人の出資持分とは

医療法人の出資持分とは、医療法人に出資した者がその医療法人に対して有する財産権のことを指します。

社団法人である医療法人には、出資持分のない医療法人も存在し、2007年4月以降、新設できる医療法人は「出資持分なし」に限られています。

しかし、現在も6割を超える医療法人が、「出資持分あり」として存続している状況です。

「出資持分あり」の医療法人では、出資者が、その出資割合(出資全体に対する自己の出資割合)に応じた出資持分を有しています。

たとえば、出資割合が50%、医療法人の財産評価額が1億円であれば、その出資者は医療法人から5,000万円の払い戻しを受ける権利を有しているのです。

出資持分の詳しい説明は、こちらの記事で解説しています。

出資持分を持っているのは誰か

それでは、この出資持分を有する出資者とは、主に誰なのかというと、多くの医療法人では「社員」です。

法律上は、出資者が社員である必要はありませんが、現実には、院長やそのご家族が医療法人を設立するために出資し、そのまま社員にも就任するケースがよく見られます。

そのため、法律上は切り離されている出資者と社員が、同じ人物であることはよくあるのです。

社員の出資持分を併せて取得する

出資持分ありの医療法人のほとんどの定款には、「社員資格を喪失した者は、その出資額に応じて払戻しを請求することができる。」(あるいは、「その出資額を限度として払戻しを請求することができる」)という定めがあります。

つまり、社員交代スキームを実行する際には、交代する社員に、医療法人に対する出資持分の払戻請求権が生じる仕組みがあるのです。

そのため、このスキームでは、交代する社員の出資持分を株式会社で買い取る(医療法人に出資する)対応がセットで行われます。

出資持分のない医療法人の場合

「出資持分なし」の医療法人の買収であれば、社員の出資持分の存在を考える必要はありません。

ただし、出資持分なしの一つである「基金拠出型医療法人」であれば、基金として拠出した財産の払戻しを受けられる社員がいる場合があるため、その買い取りを行うことがあります。

また、それがなくとも、社員の交代に伴い医療法人から退職金という形で、まとまった金銭を支給することが一般的です。

一般社団法人を活用する方法も

社員に就任させるのは、株式会社が選任した人物のほかにも、一般社団法人を活用する方法があります。

前述のとおり、株式会社は医療法人の社員に就任できませんが、一般社団法人であれば就任させることが可能です。

このことを活用し、株式会社が影響力を持つ一般社団法人を医療法人の社員とし、間接的に経営に参画する方法もあります。

一般社団法人は、法律により営利を目的としない社団として制度化されており、その法人格そのものが非営利法人として取り扱われるからです。

医療法人の買収に類似する効果を得る方法

医療法人の買収に類似する効果を得る方法もあります。

その一つが、MS法人(メディカル・サービス法人)を活用する方法です。

MS法人とは、医療法人の事務や物品管理、人材管理、医療機器や施設の賃貸など、医療以外の業務を担う法人になります。

株式会社がMS法人に出資、あるいはMS法人を新設し、そのMS法人が医療法人と取引関係を結ぶことで、医療法人の収益の一部をMS法人に移転させる構造をつくることができ、買収に似た効果を得ることができます。

また、MS法人を通じて医療法人が資金調達を行い、その経営を財政面から実質的にコントロールする方法もあります。

医療法人の買収における注意点

制度上は問題のない買収スキームであっても、医療法人とのM&Aには多くの注意点があります。

医療法を熟知すること

医療法人の買収を検討する際は、医療法人に関する法制度を熟知することが不可欠です。

出資持分に関するルールや、理事長になれる人物が医師に限られることなど、用いるスキームによって留意すべき点は異なります。

また、医療法人側では、社員の過半数の賛成があれば、理事や理事長、監事といった医療法人の主要な人事を自在に変更できるため、そうした制度上の仕組みを十分に踏まえたうえで、スキームの検討を行う必要があります。

医療法人の非営利性を損ねないこと

医療法人は都道府県による認可制であり、その運営は関係法令を遵守したものでなければなりません。

したがって、株式会社による関与に際しては、医療法人の業務の非営利性を損なわないよう十分に配慮する必要があります。

たとえば、MS法人への過度な収益移転が生じるような取引設計は、非営利性の観点から問題視される可能性があるため、避けるべきです。

不明点を残さないこと

株式会社や医療法人が買収を検討する背景には、さまざまな事情があります。

しかし、いかなる場合でも、取引条件に不明点を残さないことが重要です。

制度上は許容されるスキームであっても、一方にとってのみ有利な設計となっている場合、後にトラブルが生じたり、医療法人のスタッフに混乱をもたらしたりするおそれがあります。

まとめ

  • 医療法人は非営利法人のため、株式会社が直接買収することはできないため、株式会社は選任した個人や一般社団法人を通じて経営に関与する
  • 出資持分を取得することで、経済的な利害関係も得られる
  • MS法人の活用により、間接的に医療法人をコントロールできる
  • 法制度の理解と非営利性の維持が、スキーム構築の鍵
  • 不明点を残さない契約設計がトラブル回避に不可欠
税理士 中村太郎

いかがでしたでしょうか。

今回は株式会社が医療法人を買収するためのスキームや注意点について解説いたしました。

医療法人の買収は、通常のM&Aとは異なり、医療法制度や非営利性のポイントを抑えた上で進める必要があります。

そのためには、医療法、M&Aの法務と税務に長けた専門家によるサポートが不可欠です。

当事務所では、医療法人の買収について、出資持分の取り扱い、社員構成の変更、MS法人や一般社団法人の活用など、状況に応じた最適なスキームを選定し、リスクを説明しながら、どちらにとっても良い手続きを設計いたします。

医療法人の承継や買収に関するご相談は、ぜひ当事務所にお寄せください。

ABOUT US
新宿の税理士「中村太郎」
税理士業界経験20年超。過去、300社を超える会社、さまざまな業種・企業の税務・財務・融資・補助金申請などの業務を経験してきました。その経験と、士業はサービス業であるという精神から、ご満足頂けるご提案やサービス提供が可能であると自負しております。貴社の真のビジネスパートナー、経営者の方の「右腕」として弊社をご活用下さい。