退職金を支払うことで節税になる?
役員に支払う退職金は、適正額であればその全額を法人の損金に算入できるため、大きな節税効果を得ることができます。
さらには、退職者個人の税制も優遇されているため、少ない税負担で受け取ることが可能です。
個人事業主の場合
個人事業主の場合、事業主であるご自身やご家族に退職金を支払って経費とすることはできません。
小規模企業共済に加入し、節税しながら退職金を個人で積み立てることがおすすめです。
小規模企業共済とは
小規模な個人事業や法人の経営者が、廃業や退職に備えて掛け金を積み立てる共済制度です。
廃業や退職時に支払われる共済金は、税務上、退職金と同じ扱いになります。
掛け金はすべて個人の所得控除になりますので、加入中の節税対策にもなります。
退職金のメリット
まずは退職金を支給するメリットについて解説いたします。
退職金を支払う側のメリット
役員給与は、定期同額などの要件を満たさなければ、損金に算入できません。
しかし、役員退職金は基本的にこのルールの対象外となり、適正な範囲で支給すれば、全額を法人税の損金に算入することができます。
退職金を受け取る側メリット
受け取った退職金は、個人の「退職所得」として所得税や住民税の課税対象になりますが、その税制は、給与所得(毎月の役員報酬など)よりも優遇されています。
(収入金額-退職所得控除額)×2分の1
勤続年数(A) | 退職所得控除額 |
20年以下 | 40万円×A(最低80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(A-20年) |
所得税5%~45%、住民税10%
「退職所得」は、収入金額(源泉徴収される前の退職金の総額)から退職所得控除額を差し引いた残額の2分の1しか課税対象になりません。
税率は給与所得などと同じですが、退職所得には「分離課税」が適用されますので、他の所得と合算せずに所得税等を計算できる点でも優遇されています。
退職金を退職前に支払うとどうなる?
役員の分掌変更に伴って法人内の地位や職務内容が大きく変わる場合、それまでの勤務に対する退職金を支給することがあります。
しかし、まだ退職していない者に支払うわけですから、このような退職金に対する法人側・個人側の税務上の扱いがどうなるのか気になるところです。
国税庁では、役員の分掌変更等の際に支払った退職金について、社内での地位や職務の内容が大きく変化し、それまでの職務を実質的に退職したのと同様の事情にあれば、税務上も退職金として扱うとしています。(法人税基本通達9-2-32)
また、ここでいう分掌変更として、次のような状況を例示しています。
- 常勤役員が非常勤になった
- 取締役が監査役になった
- 役員報酬がおおむね50%以上減少した
注意点
上記の状況を形式的に満たしていても、地位や職務内容が激変している実態が伴っていなければ、退職金とは認められず、役員給与の扱いとなって損金に算入できない可能性があります。
また、分掌変更後も経営上主要な地位にある場合は上記の状況を満たしていても対象外とされており、より慎重な判断が求められます。
上記のような分掌変更に伴う退職金であれば、個人側も退職所得として扱います。(所得税基本通達30-2)
ただし、その次に支払う退職金(例:実際に法人を退職するときの退職金)の計算において、法人側は、すでに支払った退職金の勤続期間(分掌変更前の期間)を加味しないよう注意が必要です。
役員退職金について
最後に役員退職金を支払う場合について、いくらまで損金として認められるかなど、注意点を解説いたします。
役員退職金はいくらまで認められる?
役員退職金のうち、適正な額を超える過大な部分があれば、損金として認められません。
では、いくらまでなら法人の損金として認められるかというと、その役員の業務従事期間、退職の事情、同種・類似規模法人の支給状況などで判断することとされています。
実務では「役員報酬」と「功績倍率」を使った下記の計算方法(功績倍率法)がよく用いられます。
役員退職金=最終月額役員報酬×勤続年数×功績倍率(※)
(※)職責に応じた倍率。社長の目安は3倍。
役員退職金の注意点
- 勤続年数5年以下の場合1/2課税にできない
役員としての勤続年数が5年以下である場合、退職所得の計算(退職金を受け取った個人側の税務)における「2分の1」が適用されません。
役員としての期間が短いと、役員個人が負担する退職金の所得税等が高くなるということです。
- 損金算入限度額
役員退職金は、その役員の業務従事期間、退職の事情、同種・類似規模法人の支給状況などから過大である部分は損金に算入できないことと定められ、具体的な金額基準はありません。
実務では功績倍率法での計算がよく用いられますが、法令で定められた計算方法というわけではないため、判例等も踏まえながら判断する必要があります。
- 社長を退任し会長に就任する場合
過去の裁決事例では、代表取締役から代表権のない取締役に分掌変更することについて、「単に役員としての分掌が変更されたにすぎないのであるから、当該法人を退職したということはできない」とし、代表取締役の退任時に支給した退職慰労金を、損金算入できない役員給与であると判断した例があります。(平成29年7月14日裁決)
会長職の在り方に決まりはありませんので、すべてのケースがこの裁決事例と同じ結論になるとは言えませんが、注意が必要です。
まとめ
役員退職金の法人・個人における節税メリット、退職前に退職金を支給する場合の税務上の扱い、役員退職金をいくらまで損金算入できるかなどを解説しました。
役員退職金の計算方法は、法令に定められたものがあるわけではなく、功績倍率法以外の方法も存在します。
いくら支払うべきか迷ったときは、税理士にご相談ください。
いかがでしたか?
役員退職金の計算方法は、法令で定められたものはなく、様々な方法で計算が可能であり、会社様によって選択すべき計算方法が変わります。
長きにわたって会社を支えて下さった方に支払う退職金。
支払額に迷いましたら、是非ご相談ください。
まいど!西新宿の税理士 中村です!
額が大きく、税額にも影響を及ぼす退職金。
皆様、退職金を活用した節税方法がご存知ですか?
本記事にて、上記紹介しておりますので是非最後までお付き合いください!