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医療法人とは?種類、個人との違い、メリット・デメリットを解説

税理士 中村太郎

まいど!西新宿の税理士 中村です!

今回は【医療法人とは】について。

個人開業医にとっての医療法人化は、事業拡大や節税、後継者への事業承継においても有利に働く選択となります。

一方で、医療法人化には開業時の煩雑な手続きや、その後の運営管理に特有の厳格さが求められるなどデメリットも存在します。

この記事では、医療法人の概要、個人と医療法人の違い、医療法人の形態や類型、法人化の一般的なメリット・デメリットについて解説します。

是非ご一読ください!

医療法人とは

医療法人とは、病院や診療所、介護老人保健施設などの医療施設を運営することを目的に、医療法に基づき設立される法人です。

医師の数は1人でよく、医療法人の約8割が一人医師医療法人(常勤の医師が1人または2人の医療法人)と言われています。

個人と医療法人の違い

医療法人を開設する場合は、都道府県知事の認可が必要です。

また、認可を受けた後も、運営中は毎期に行う手続きが存在します。

個人と医療法人の違いを以下にまとめます。

個人医療法人
開設時診療所は届け出でよい都道府県の認可が必要
毎期の決算届・登記など不要必要
事業範囲病院・診療所病院・診療所・介護老人施設(有料老人ホーム等)
分院設置不可可能
運営体制特にルールなし
(1人で運営可)
【社団の場合】社員(3名以上)と役員(理事、監事)で運営する。(医師は1名で可)
経営者の収入収益-費用医療法人からの役員報酬
税務事業の利益に所得税等がかかる事業の利益に法人税等、個人の役員報酬に所得税等がかかる
社会保険への加入健康・厚生年金:従業員5人以上
雇用・労災:従業員1人以上
健康・厚生年金:必須
雇用・労災:従業員1人以上
非営利性特に求められない必要

医療法人の非営利性とは

医療法人の運営には、「非営利性」が求められます。その理由は、その理由は、社会保険制度の下にある日本の医療サービスにおいて、営利追求による地域医療の質の低下や不公平な対応を防止するためです。

ただし、非営利性とは、一般的に想像される「儲けてはダメ」や「お金をもらってはダメ」という意味ではありません。
医療法人であっても、事業を拡大して利益を出すことは可能ですし、もちろん医師であるご自身に、一定の手続きで定めた役員報酬を医療法人から毎月支払うことができます。

では、何が禁止されているのかというと、役員報酬などの費用を除いた後の「剰余金」、つまり法人の資本として蓄積される部分を医療法人から出資者に配当する行為です。

このことは医療法で明確に禁止されています。

税理士 中村太郎

私が顧問を務める医療法人の先生方にも、医療法人とMS法人の両方を設立してうまく事業展開されている方がたくさんいらっしゃいます。

気になることがあれば、ぜひご相談ください。

医療法人の法人形態

医療法人の法人形態の種類などについて解説いたします。

社団法人と財団法人の違い

医療法人を設立するには、まず「社団」か「財団」のどちらの形態で法人を設立するのか選択する必要があります。

「社団」とは、一定の目的を持って集まった「人」を実体として設立する法人であり、「財団」とは寄附によって集まった「財産」を実体として設立する法人のことです。

寄附により財産を集める難しさもあり、日本における医療法人の約99%が「社団(社団医療法人)」になります。

【近年の社団医療法人の割合】

総数社団財団社団医療法人の割合
2008年45,07844,67240699.1%
2012年47,82547,43439199.2%
2016年51,95851,57738199.3%
2020年55,67455,30437099.3%
2024年58,90258,50839499.3%

厚生労働省HP:種類別医療法人数の年次推移

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html

「社団」である医療法人は、さらに「持ち分あり」と「持ち分なし」に分かれます。

【近年の持ち分あり・持ち分なし医療法人の推移】

社団持ち分あり持ち分なし
2008年44,67243,6381,034
2012年47,43442,2455,189
2016年51,57740,60110,976
2020年55,30438,72116,583
2024年58,50836,39322,115

厚生労働省HP:種類別医療法人数の年次推移

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/iryou/igyou/index.html

医療法の改正によって、2007年4月1日以降に新しく設立できる社団医療法人は、「持ち分なし」に限られます。

そのため、「持ち分あり」は2008年から緩やかに減少していますが、現時点でも改正前から存在する「持ち分あり」(通称「経過措置型医療法人」)のほうが多い状況です。

持ち分ありと持ち分なしの違い

「持ち分」とは出資持分のことであり、医療法人の「社員(※)」が医療法人に対して行った出資に応じて得られる財産権を指します。

たとえば、「持ち分あり」の医療法人では社員が亡くなった場合、その出資持分に応じた剰余金が故人の相続財産として相続税の対象になります。一方、「持ち分なし」であれば、個人に帰属する出資持分が存在しないため、相続税の対象になりません。

また、「持ち分なし」の医療法人では、将来解散した際の法人の残余財産が国に帰属します。そのため、「持ち分なし」の医療法人では、事業承継や退職後の生活まで設計することが大切です。

(※)ここでいう「社員」とは従業員のことではなく、法人のオーナー(株式会社でいう株主)のことであり、法人の意思決定を行う法人の機関になります。

税理士 中村太郎

当事務所では、医業に関する税務会計や事務まわりのご支援に加え、個人向けの資産形成や次世代への事業承継まで、長期的なサポートを得意としております。ぜひお気軽にご相談ください。

医療法人の類型

医療法人には、基金拠出型医療法人、特定医療法人、社会医療法人という類型があります。「社団」と「財団」の形態で医療法人の類型を分けると、以下の表のようになります。

社団(持ち分なし)財団
・基金拠出型医療法人
・特定医療法人・特定医療法人
・社会医療法人・社会医療法人
・一般の社団医療法人(上記以外の医療法人)・一般の財団医療法人(上記以外の医療法人)

それでは、1つずつ確認していきましょう。

基金拠出型医療法人

「基金拠出型医療法人」とは、「持ち分なし」の社団医療法人の類型の一つです。医療法人を運営する原資となる基金の拠出を、広く募集することができます。

出資された基金は返還する義務がありますが、返済の原資がない場合にまで返済しなければならないものではなく、経営の安定性を保つことができます。また、経営が安定してきたら、ご自身が出資した金額を返還してもらうことにより拠出額を現金化することもできます。

現在、「持ち分なし」の社団医療法人の8割以上が、この基金拠出型医療法人で運営されています。

特定医療法人

「特定医療法人」とは、租税特別措置法の規定に基づき、医療の普及と向上、社会福祉への貢献など公益の増進に著しく寄与し、公的に運営されている医療法人として、国税庁長官の承認を受けたものです。

通常の医療法人よりも、高い公益性と非営利性を確保するため、一定の要件を満たす必要があります。

そのため、令和6年3月末時点での特定医療法人の数は、医療法人全体の約0.5%にとどまっています。

承認された場合、法人税の軽減税率(19%、通常は23.2%)が適用されるという大きなメリットがあります。

なお、「社団」「財団」のいずれの医療法人も特定医療法人の対象となりますが、「社団」の場合、基金拠出型医療法人は制度の対象外です。

税理士 中村太郎

基金拠出型医療法人から「特定医療法人」になるには、基金を返還するなど一定の手続きを取る必要があります。次の「社会医療法人」になる場合も同じです。

社会医療法人

「社会医療法人」とは、医療法の規定に基づき、救急医療や「へき地医療」、周産期医療など、地域で特に必要とされる医療の提供を担う医療法人です。

この認定は、都道府県の認定を受けることで得られます。 非常に高い公益性と非営利性が求められるため、令和6年3月末時点での数は、医療法人全体の約0.6%にとどまります。

認定を受けた場合、本来業務(病院、診療所、介護老人保健施設)から生じる所得に対して法人税が非課税となります。

さらに、直接救急医療等確保事業に関連する業務用資産については、固定資産税などの非課税措置が適用されます。

このほか、他の医療法人では認められない収益業務や社会福祉事業への参入も可能となります。 「社団」「財団」のいずれの医療法人も対象ですが、基金拠出型医療法人は制度の対象外です。

医療法人化で得られる3つの節税効果

医療法人化することの大きな利点に、節税効果があります。

ここではその節税効果を、医療法人の運営中、事業承継時、退職時に分けて解説します。

運営中の節税効果

個人事業主の場合、医業で得られた利益(収入-経費)は個人の「事業所得」として所得税等の対象となります。これに対し、医療法人では、法人の所得は法人税等の対象となり、法人から受け取った役員報酬は個人の「給与所得」として所得税等の対象となります。

このように医療法人化すると、課される税金の種類は増えますが、以下の理由から法人化した後のほうが納税額を減らしやすくなります。

所得税より法人税の税率のほうが低い

個人の所得にかかる所得税は、5%~45%の累進課税であり、所得が大きくなるほど税負担が重くなります。

一方、医療法人の所得にかかる法人税の税率は23.2%です。そのため、所得が一定のラインを超えると税率が逆転し、税率差による節税が可能となります。

税理士 中村太郎

法人化することで経費の中身が変わることもあります。詳細な節税効果を確認するには、税理士に法人化した後の納税額のシミュレーションを依頼しましょう。当事務所でも相談を承っております。

役員報酬には控除がある

医療法人から支払われた役員報酬は、法人の経費となります。

同時に、個人の所得として所得税の対象になりますが、所得税は「給与所得控除額」を差し引いた後の金額に対して課税されます。この控除額分だけ課税所得が減少するため、結果的に節税効果が得られます。

親族への給与を経費にしやすい

個人事業では、事業専従者でない配偶者などへの給与を経費に計上することはできませんが、法人にはこの制約がありません。

そのため、親族を役員や従業員として給与を支払うことで、上記の役員報酬と同じ仕組みにより節税効果をさらに拡大させることができます。

事業承継時の節税効果

個人事業における事業承継では、先代が所有する事業用資産を後継者が引き継ぐ際に、それらが相続税や贈与税の対象となります。

これに対し、出資持分のない医療法人を承継する場合、相続税や贈与税の負担は発生しません。

税理士 中村太郎

持分ありの医療法人など事業承継に伴う負担が気になる方は、事業承継税制や補助金の活用を一緒に検討しましょう。当事務所にご相談ください。

退職時の節税効果

個人事業の場合、医師自身に支払った退職金を経費にすることはできません。

一方、医療法人では、法人から医師に役員退職金を支給した場合、原則的にはすべて法人の経費として認められます。

さらに、退職金には「退職所得控除」が適用され、控除後の金額の2分の1のみが個人の課税対象となるため、通常の役員報酬よりもさらに優遇されています。

医療法人化のメリット・デメリットまとめ

個人事業の医療法人化を検討する場合、そのメリットとデメリットを比較し、ご自身の状況に当てはめて判断することが大切です。

最後に、医療法人化の一般的なメリット・デメリットをご紹介します。

医療法人化のメリット

・節税がしやすくなる

・複数の事業所の経営が可能になる

・運営できる業務の幅が広がる

・理事長を変更することで事業承継を容易に行えるようになる

・社会的信用が向上する

医療法人化のデメリット

・設立のための手続きが必要になる

・認可事業であるため行政の監督が厳しくなる(例:立ち入り検査など)

・毎期必要な報告や登記がある

・法人税等の申告が必要になる

・上記に関する事務の増加による運営コストの上昇がある

税理士 中村太郎

医療法人化は、節税や事業承継のしやすさ、社会的信用の向上といった多くのメリットを持ちながらも、設立手続きや運営コストの増加など、慎重な検討が必要な側面もあります。

法人化のメリットとデメリットを把握し、ご自身の医院の状況や将来の目標に合わせて判断することが大切です。

法人化を検討される際には、専門家の意見を参考にすることで、より具体的で適切な計画を立てることができます。

当事務所では、医療法人化に関する初期のご相談から、法人運営や事業承継、退職時の節税対策まで、幅広いサポートを提供しております。

ぜひお気軽にご相談ください。

ABOUT US
新宿の税理士「中村太郎」
税理士業界経験20年超。過去、300社を超える会社、さまざまな業種・企業の税務・財務・融資・補助金申請などの業務を経験してきました。その経験と、士業はサービス業であるという精神から、ご満足頂けるご提案やサービス提供が可能であると自負しております。貴社の真のビジネスパートナー、経営者の方の「右腕」として弊社をご活用下さい。