源泉徴収税とは源泉徴収制度によって納付する所得税のこと
源泉所得税とは、給与や報酬、利子など一定の支払いをする者が、その支払い時に徴収する所得税のことです。
身近な例でいえば、会社が従業員に支払う、月給・ボーナス・退職金から天引きする源泉所得税があります。
源泉所得税は、支払者が一旦預かった後、支払者から税務署に納付されます。
このように支払者が所得税を支払額から天引きし、納税者の代わりに税務署に納付する制度のことを、源泉徴収制度といいます。
源泉徴収義務者とは
源泉所得税を徴収しなければならない義務のある支払者のことを、「源泉徴収義務者」といいます。
この「源泉徴収義務者」が、源泉徴収制度の対象所得を支払うときに、源泉所得税の徴収が必要になります。
源泉徴収義務者の範囲は、原則、すべての法人や個人事業主です。
民間企業だけでなく、官公庁や学校なども対象所得の支払いをするときは、源泉所得税を徴収しなければなりません。
ただし、例外として、個人のうち常時2人以下の家事使用人のみに対して給与等の支払いをする個人については、その給与や退職金、報酬、料金などから源泉徴収をしなくてよいこととされています。
源泉所得税と所得税の違い
源泉所得税とは、支払者が源泉徴収して納める所得税のことです。
所得税には、この源泉所得税のほか、納税者が自ら申告して納税する申告所得税も含まれます。
したがって、源泉所得税は所得税の一つであるといえます。
源泉所得税と申告所得税の違い
源泉所得税とは、支払者が徴収し、納税者に代わって納付する所得税になります。
これに対して、申告所得税とは、納税者である個人が自ら確定申告をすることによって納税する所得税です。
申告所得税は、源泉所得税の対象になる所得を含むすべての所得から計算しますので、その年に徴収された源泉所得税があれば、申告所得税からその金額を差し引いて納税額を計算します。
源泉所得税と源泉徴収税の違い
源泉所得税は、現在、復興特別所得税を加えた「源泉徴収税」という呼び方をしています。
復興特別所得税とは、2013年1月1日から2037年12月31日までの間、所得税に対して2.1%の税率で発生する税金です。
例えば、税理士に対する報酬の源泉所得税は、報酬金額に対して本来10%ですが、現在は「源泉徴収税」として10.21%で計算しなければなりません。
源泉所得税の徴収が必要となる所得
源泉所得税の徴収が必要となる所得は、支払相手が個人である場合と法人である場合で分かれます。
個人の場合
相手が個人である場合、下記のような支払いをするときに源泉所得税の徴収が必要になります。
- 預貯金や公社債などの利子
- 株や投資信託などの配当金や分配金
- 社員やパート、アルバイトに支払う給与、賞与、退職金
- 公的年金、保険会社等が支払う個人年金
- 外部に支払う原稿料、デザイン料、作曲料、講演料、スポーツ指導料
- 弁護士、税理士、社労士、司法書士などに支払う報酬
- 社会保険診療報酬支払基金が医師に支払う診療報酬
- 外交員、プロスポーツ選手やモデルに支払う報酬
- 映画、演劇、ラジオ放送、テレビ放送の出演・演出・企画の報酬
- 芸能人や芸能プロダクションに支払う報酬
- バーの経営者等がホステスやコンパニオンに支払う報酬
- 広告宣伝のための賞金や馬主に支払う競馬の賞金 など
法人の場合
相手が法人である場合も、下記のような支払いをする際は、源泉所得税の徴収が必要になります。
- 預貯金や公社債などの利子
- 株や投資信託の配当金や分配金
- 馬主に支払う競馬の賞金 など
※ 法人が徴収された源泉所得税は、法人税の申告において法人税額から控除します。
源泉所得税の計算方法
源泉所得税は、対象となる所得を支払う者が、その支払額から計算しなければなりません。
ここでは、給与、賞与、退職金、報酬に対する源泉所得税の計算方法を解説します。
給与の源泉所得税の計算方法
給与から差し引く源泉所得税の金額は、国税庁の「源泉徴収税額表」において一覧化されています。
同表では、「社会保険料控除後の給与」に対して源泉徴収する税額が示されているため、給与の支給額と社会保険料を確認することは必要ですが、電卓などで計算することはあまりありません。
ただし、源泉所得税の金額は、月額表と日額表で分かれており、これらの表はさらに甲欄や乙欄などで金額が分かれています。
どの表・どの欄の金額を使用すればよいのか、判定が必要です。
判定は、給与の支払いサイクル、雇用形態(日雇いかそれ以外か)、扶養控除等申告書の提出の有無で行います。
給与の支払い状況 | 扶養控除申告書 | 判定結果 |
---|---|---|
月ごと・半月ごと・10日ごと・月の整数倍の期間ごとに支払う給与 | 提出あり | 月額表・甲欄 |
提出なし | 月額表・乙欄 | |
日ごと・週ごと・日割りで支払う給与(日雇いを除く) | 提出あり | 日額表・甲欄 |
提出なし | 日額表・乙欄 | |
日雇賃金 | ー | 日額表・丙欄 |
その年の最初に給与の支払を受ける日の前日までに提出を受けた「扶養控除等申告書」の記載内容を正しく読み取ることが必要になります。
賞与の源泉所得税の計算方法
賞与の源泉所得税の金額は、社会保険料等控除後の賞与の金額に、「賞与の金額に乗ずべき率」をかけて計算します。
「賞与の金額に乗ずべき率」は、源泉所得税に復興特別所得税を合わせた「2.042%~45.945%」となります。
源泉徴収税額表の「賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表」において、賞与を受ける人の「前月の社会保険料控除後の給与額」に対応する税率が、「賞与の金額に乗ずべき率」になります。
賞与の場合も、扶養控除等申告書の提出の有無によって甲欄・乙欄に分かれます。
また、下記の場合は、給与と同じ「月額表」を使用します。
賞与を受ける人の「前月の社会保険料控除後の給与額」が多いほど、高い税率が適用されます。
- 前月中に給与の支払いがない場合
- 前月中の給与が前月中の社会保険料等の金額以下である場合
- 賞与の金額が前月中の普通給与の額の10倍を超える場合
賞与の状況 | 扶養控除申告書 | 判定結果 |
---|---|---|
通常の賞与 (下記に該当しない賞与) | 提出あり | 算出率の表・甲欄 |
提出なし | 算出率の表・乙欄 | |
・前月の給与がない or 社会保険料以下 ・前月の給与の10倍 | 提出あり | 給与の月額表・甲欄 |
提出なし | 給与の月額表・乙欄 |
退職金の源泉所得税の計算方法
退職金の源泉所得税の計算方法は、退職金を支払う従業員などから「退職所得の受給に関する申告書」(退職所得申告書)の提出を受けているかどうかによって変わります。
- 退職所得申告書の提出を受けている場合
退職所得の金額(課税退職所得金額)×所得税率
下記の速算表を使用して計算します。
国税庁:令和5年分 源泉徴収税額表 https://www.nta.go.jp/publication/pamph/gensen/zeigakuhyo2022/02.htm
- 退職所得申告書の提出を受けていない場合
退職金の支払金額×20.42%
退職所得申告書の提出を受けている場合の「退職所得」は、下記の方法で計算します。
退職所得=(退職金の支払金額-退職所得控除額)×2分の1
まず、従業員から提出を受けた退職所得申告書の内容から「勤続年数」を計算します。
次に、「勤続年数」から「退職所得控除額」を計算し、上記の計算式から「退職所得」を計算します。
最後に、上記の速算表の「課税退職所得金額」に退職所得の金額をあてはめて、源泉所得税及び復興特別所得税を計算します。
※ 短期退職手当や特定役員退職手当にあたる退職金の場合、計算方法が異なります。
勤続年数は、退職所得申告書の内容から読み取って計算する必要があります。
基本的には退職金を支払う会社に引き続き勤務した期間のことであり、1年未満の期間は1年に切り上げます、
例えば、入社から「10年2か月」で退職する場合、勤続年数は「11年」になります。
※ 他の勤め先との勤続年数が重複している場合などは、勤続年数の数え方が変わってきます。
勤続年数を計算した後、下記の表で退職所得控除額を計算します。
勤続年数 | 退職所得控除額 |
---|---|
20年以下 | 40万円×勤続年数 (80万円に満たない場合は、80万円) |
20年超 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年) |
報酬の源泉所得税の計算方法
外部の個人に支払った報酬から徴収する源泉所得税は、その業種によって計算方法が異なります。
例えば、士業に支払う報酬にも、次のような違いがあります。
業種 | 源泉所得税・復興特別所得税 | 備考 |
---|---|---|
・弁護士 ・公認会計士 ・税理士 ・社会保険労務士 ・中小企業診断士 ・不動産鑑定士 など | 報酬×10.21% | 同一人に対する1回の支払いが100万円を超える場合、 超過部分については20.42% |
・司法書士 ・土地家屋調査士 など | (報酬-1万円)×10.21% | ー |
【例1】15万円の税理士報酬
15万円×10.21%=1万5,315円
→源泉所得税及び復興特別所得税:1万5,315円
→税理士への支払額:13万4,685円
【例2】150万円の弁護士報酬
(150万円-100万円)×20.42%+100万円×10.21%=20万4,200円
→源泉所得税及び復興特別所得税:20万4,200円
→弁護士への支払額:129万5,800円
【例3】1万円の司法書士報酬
(1万円-1万円)×10.21%=0円
→源泉所得税及び復興特別所得税:なし
→司法書士への支払額:1万円
※ 税額に1円未満の端数があるときは切り捨てます。
※ 原則、消費税を含めた金額から源泉所得税を計算しますが、請求書等において消費税額が区別されている場合は、税抜き価格から計算しても差し支えありません。
源泉所得税の納付方法
源泉徴収税の納付期限
給与や報酬などから源泉徴収した源泉所得税は、徴収した日の翌月10日までに納付します。
ただし、給与を支払う人数が常時10人未満である場合は、「源泉所得税の納期の特例の承認申請書」を税務署に提出することにより、納付回数を年2回にすることができます。
この場合の納期限は、下記のとおりです。
・1月から6月の間に徴収した源泉所得税…7月10日
・7月から12月の間に徴収した源泉所得税…翌年1月20日
いずれの場合においても、復興特別所得税を合わせて納付します。
現金給付
ここからは、源泉所得税の納付方法の種類を紹介します。
まずは、現金納付です。
現金納付とは、金融機関または所轄の税務署の窓口において、専用の納付書とともに現金を納付する方法です。
手数料はかかりません。
領収証書は発行されます。
なお、法定納期限までに納付されなかった源泉所得税について、税務署から「納税の告知」が行われることがあります。
この「源泉所得税(告知分)」については、コンビニエンスストアから、QRコードやバーコード付納付書によって納付する方法があります。
クレジットカード納付
クレジットカード納付とは、「国税クレジットカードお支払サイト」を通じて、インターネットで納付する方法です。
e-Taxで徴収高計算書データを送信し、メッセージボックスに届く受信通知から、「国税クレジットカードお支払サイト」にアクセスする必要があります。
24時間利用できますが、納税金額に応じた決済手数料がかかる点に注意が必要です。
領収証書は発行されません。
インターネットバンキング
e-Taxを利用して、インターネットバンキングから納付する方法です。
e-Taxの利用可能時間内であり、かつ、利用する金融機関のインターネットバンクが稼働している時間帯に利用できます。
手数料は国税側では不要ですが、インターネットバンキングサービスに対して発生することはあります。
領収証書は発行されません。
【e-Taxの利用可能時間 】
・火曜日~金曜日 24時間
・月・土・日・休祝日 8時30分~24時間
※ 上記の時間であってもメンテナンスで使えなくなることがあるため、ゆとりをもって利用する必要があります。
ダイレクト納付
ダイレクト納付とは、e-Taxで預貯金口座から税額を振り替える方法です。
インターネットバンキングを申し込んでいなくても利用できる電子納税の方法になります。
あらかじめ「ダイレクト納付利用届出書」を、ダイレクト納付を利用するおおむね1か月前までに税務署に書面提出するか、おおむね1週間前までにe-Taxでオンライン提出をする必要があります。(オンライン提出は個人のみ可)
手数料は不要です。
領収証書は発行されません。
まとめ 源泉所得税は忘れずに正しく計算して納付しましょう
源泉所得税の計算方法や納付方法について解説しました。
今回は、支払相手が日本の居住者や日本の法人であることを前提としていますが、支払先が非居住者や外国法人の場合、源泉徴収の対象となる所得や計算方法が変わりますので注意しましょう。